トップページ

消費・消費者ローン経済実験システムの開発

井澤 裕司
立命館大学

マルデワ グレッグ
近畿大学

本稿は、われわれが開発した消費者ローン(payday loan)を分析するための経済実験システムの概要を説明し、それを用いた経済実験の結果を報告する。

実験システムは、(1) 複数の消費項目と毎月の給与やボーナスからの返済を想定した複数の借入が可能な1年間の消費・借入実験;(2) 時間選好率計測実験;(3) リスク回避度計測実験、の3つの実験のよって構成されている。消費・借入実験では、被験者は1年間の所得制約のもとで、消費者ローンを活用しながら各消費項目から獲得されるポイントの総計を最大化することが求められる(獲得したポイントは実験終了後に現金に換算され被験者に支払われる。)。実験では実時間の2。5秒が実験上の24時間と見なされ、あらかじめ時間選好率計測実験によって推計された各被験者の時間選好率を用いて各消費項目のポイントが時間の経過に伴い低減するように設定されている。われわれの実験結果は、消費者ローンの決定は、概ね推計された時間選好率と整合的であり、個別の時間選好率を用いたポイント低減によって、意思決定における実時間を実験的に収縮させる試みが成功していることを示唆している。

さらにわれわれの実験結果から以下のような興味深い事実が指摘できる:(i) 時間選好率が特に高いグループではローンの意思決定が異常値と認められる結果を示す。これはあまりにも時間選好率が高い被験者は、時間に関する合理的な意思決定に失敗する可能性が高いことを示している;(ii)一般に各被験者のリスク回避度は消費者ローンの意思決定に対して有意な説明力を持たない。これらの事実は適正な消費者ローンのためには、利用者の時間選好率を考慮することが決定的に重要であることを示唆している。

時間の収縮効果を持つと考えられるわれわれの実験システムは、消費者ローン利用の適正性の判断や、利用者への適切なアドバイスを行うための情報を収集するなど、様々な実務的な応用が期待される。

→英語バージョン

ページのトップへ戻る