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ローン契約者は金利に敏感なのか、借入額に敏感なのか*
-金融借入に関するコンジョイント分析-

森 剛志
甲南大学

本稿では、これまでの消費者ローンの研究とは異なり、一般の消費者に仮想的な「金利」や「貸付額」でローン契約をする場合を提示し、そのアンケートに答えてもらうという仮想評価法(CVM)で分析を行う。CVMは、携帯電話、医療の新技術、環境整備などでの価格の設定と普及率の計測など、すでに医療経済、環境経済、情報通信など幅広い分野で用いられている分析方法である。本稿では、CVMの中でもConjoint分析を行った。今後起こり得る事態を仮想的状況として提示し、その影響をあらかじめ先取りできる点でも大きなメリットがある。本稿は、消費者金融においてこうした分析方法を用いた最初の論文であり、このような市場に対して、機動的に将来設計を提示しうる分析手法として、本稿の分析手法は寄与しうるものと考える。
 具体的には、「金利」あるいは「量」のどちらが消費者の借入行動に際して、優先度の高いものとして評価されているか見るために、さまざまな水準の金利や貸付額を組み合わせて提示するというコンジョイント分析により、ローンを提示された際の消費者の借入確率を定量的に計測した。分析には、自動車ローンを提示した場合の消費者の選択行動をみた。
 結論を先取りして言えば、Dean Karlan & Jonathan Zinman(AER, 2008)と同様、日本のローン契約者は「貸付額」には無頓着であるが、「金利」と「返済期間」により強く反応することがわかった。一方で、借入を容易に行わないタイプの消費者は「借入額」により敏感に反応し、金利には反応するものの、「返済期間」には無頓着であることがわかった。
 本稿では、デフォルトリスクの高い個人は返済期間に強く反応することも明らかにした。
 これは貸し倒れが起こらないためには、返済期間を短期に設定し、こまめにモニターすることで貸し倒れのリスクを低下させることが有効であるということを示唆する。

 *本研究は、全国銀行学術研究振興財団の助成による。ここに感謝の意を示したい。


→英語バージョン

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