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2007年 消費者金融サービス研究学会年報 No.2

上限金利規制強化が借手に与える影響
-消費者の最適な消費選択を考慮に入れて-
大塚 茂晃
関西学院大学大学院

近年の消費者金融に関する大きな制度変更は、上限金利規制の強化である。2006年12月に「貸金業規制法の改正案」が成立・施行された。その目的は多重債務問題の解決を図り、健全な貸金業の育成にある。その主な内容は総量規制の導入およびみなし弁済制度の廃止である。これにより、いわゆるグレーゾン金利が撤廃され、上限金利規制が強化される。具体的は、利息制限法に従い上限金利は元本が10万円未満の場合は年率20%、元本が10万円以上100万円未満の場合は年率18%、元本が100万円以上の場合は年率15%となり、消費貸借上の利息契約がこれを超えるよう定めることは原則、出来なくなる。
 このような上限金利規制の背景には多重債務者問題がある。多重債務者への過剰な取立てや返済のために安定した生活を送ることが出来ない人についての報道がなされた影響もあり、多重債務者を救済する必要があるとの社会的気運から、貸金業について規制強化する動きとなった。また、このような多重債務者が返済に苦しんだ末に、自殺するケースも見られたことも規制強化を後押しした。自殺する人のすべてが多重債務者ではないが、その自殺者数の推移をみると、1998年以降、年間31,000人を超える水準で続いており、バブル期の平均が22,000人だったことと比較すると約4割も増加している。さらに、自己破産する人も一定数で推移している。これらは、1990年代後半以降の不況が影響していると考えられる。近年のこれらの状況を表したのが図1(※)である。図1は、2003年を100として、自己破産件数および自殺件数、そして大手消費者金融会社による貸倒償却率について、その推移を示したグラフである。自己破産の数とともに消費者金融による償却も増加しており、これらが無縁ではないことが分かる。
 このような多重債務者を救済するために、上限金利の引き下げや総量規制が導入される。そして、その効果として多重債務者が減少することが期待され、金銭苦による自殺を減らすことが出来るのではないかと言われている。そこで、本稿の目的は、このような消費者金融からの借入れについて、3つのことを考察することにある。1つは上限金利規制強化が消費者金融市場を縮小させる結果となるだろうが、双曲割引および流動性の観点から、それが借り手にとって望ましいことかどうかを議論する。2つ目に、このような規制強化の貸金業者への影響を分析し、規制強化によって貸金業者の貸出し戦略に影響をもたらす可能性について考察をすることである。3つ目に規制強化後の消費者金融市場について検討を行う。
 上限金利規制に関する先行研究はいくつかある。それらの分析から、このような上限金利規制強化は、市場を収縮させ、資金需要に十分に応じられなくなるとの研究がいくつもなされている(Caskey (1994)・Villegas (1989))。それらを踏まえ、本稿の特徴は、以下の2点にまとめることが出来る。第1点目は、Stiglitz and Weiss (1981)のモデルを用いて、わが国の消費者金融業者の状況について明らかにすることである。このモデルを用いてわが国の消費者金融市場についての分析を行ったものは見当たらず、本稿の貢献である。第2点目は、現状の消費者金融市場の状況から、上限金利規制強化についての妥当性を論じることである。
 本稿の結論は以下の2点である。第1点目は、上限金利規制強化によって金利が引き下げられるため、資金需要は増加するが、資金供給は減少し、消費者金融市場が縮小する。第2点目は、①双曲割引の存在による過剰な消費の可能性、②消費者信用が発展している現状、③ギャンブルといった望ましくない消費のために消費者金融が利用されていること、④将来の所得の大きな増加が望めないわが国の経済現状から、そのような消費者金融市場の縮小は社会的厚生を高める可能性がある。
 本稿の構成は以下のとおりである。まず、第2節で借り手である消費者の行動について、貸金業者から借入れる状況について考察を行う。第3節はStiglitz and Weiss (1981)のモデルを用いて、貸金業者の資金供給について分析を行う。第4節では上限金利規制強化の影響について考察を行い、第5節でこれらの議論をまとめる。

※図1は年報に記載。

An Analysis of Impact Cutting Cap Interest Rate on Consumer Credit in Japan
Shigeaki Ohtsuka
Kuwansei Gakuin University

 Heavy debtors and suicide victims have been increasing in Japan. Some of these have excessive debts, called “multiple consumer debts”. So Japan Diet passed a bill bringing down the maximum allowable interest rate to 20%. But basic problem of these heavily indebted people is that they borrow money too much to repay. We investigate the rate of time preference of these people with the hyperbolic discounting effect. And we suggest situation that people need to take out consumer loans. This paper also considers the reducing interest rate causes consumer finance market to shrink. We also analyze consumer finance companies by using Stiglitz and Weiss (1981) model.

Key Words: Consumer Finance, Regulated Maximum Interest Rate, Hyperbolic Discounting.
JEL: D11, D82, G29.

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