2017年全国大会 7月16日 報告要約
日本のダイバーシティ経営の特徴と課題
―「経済産業省 ダイバーシティ経営企業 100 選」の事例分析-
中央大学戦略経営研究科 酒井之子
日本の大企業にダイバーシティ経営を導入・定着していくためには、機会均等施策や働き方改革だけでなく、 人事管理システムの改革や組織成果を生みだすためのインクルージョン施策が重要となる。 日本のダイバーシティ経営で先進的とされる「経済産業省 ダイバーシティ経営 100 選」の表彰企業の 84 社の事例分析によって、 取組と成果の特徴を明らかにする。女性を中心とした取組と成果が見られる一方で、マネジメント変革や人事処遇制度の課題が挙げられた。
仕事と治療の両立支援の課題
―がん経験社員へのインタビュー調査から―
羽衣国際大学 池田 玲子
仕事を持ちながら通院しているがん患者(経験者)は推計 32 万 5 千人で、今後も増加すると予測される。 企業による仕事と治療の両立と支援は、人事管理における WLB の新しい課題となる。そこで企業が提供すべき環境や制度整備を明らかにするために、 働くがん患者(経験者)へのインタビュー調査を行った。罹患前から通常勤務に至る経緯を調査したところ、WLB 制度とステージに応じた職場対応の重要性が明らかになった。
企業で働いている精神障害者の心理的特性と組織行動の関係についての研究
法政大学大学院政策創造研究科・德丸史郎 法政大学・石山恒貴企業で働いている精神障害者の心理的特性と組織行動の関係を検討することを目的に、 精神障害者と健常者の特性的自己効力感とソーシャルスキルを 2 時点で測定するパネル調査を実施した。 精神障害者と健常者における、特性的自己効力感とソーシャルスキルの双方向の影響関係について同時効果モデルを用いて分析を行った結果、 両者において共通する影響関係と異なる影響関係があることが明らかとなった。
どのような人事制度下で働いている非正規雇用者が将来に希望を持っているのか
下関市立大学経済学部 森山智彦本研究では、契約社員やパート・アルバイトに対する正社員登用制度、昇進・昇格制度といった人事管理制度が、 非正社員の将来への見通しに与える影響を分析した。その結果、正社員登用実績がある企業の契約社員や昇進・昇格制度がある企業の契約社員、 パート等は、将来に明るい見通しを持っていた。非正社員の働きぶりを評価し、キャリアアップに目に見える形で反映させる制度が、希望や意欲の向上に有効だと言えよう。
テレワークの実態と効果に関する実証分析
リクルートワークス研究所 萩原牧子東洋大学経済学部 久米功一本稿では、就業者の個票データを用いてテレワークの効果を実証的に分析した。具体的には、テレワーク実施者を、テレワークが制度適用されている「制度適用型テレワーク」と「非適用型テレワーク」に分けた上で、労働時間、家事育児時間、仕事・生活満足、自己啓発、転職意向について、テレワーク非実施者との比較で検証した。その結果、テレワークを制度として適用することが、テレワーク実施者の厚生に高めることが示唆された。
大手企業に存在するもう一つの定年役職定年の考察
立教大学ビジネスデザイン研究科 三井福次郎大手企業に社内規程として存在する「役職定年制度」、その実態と大手企業より資料の提供を受け、組織と「役職定年者」個人との思いの差を、「仕事に対する意欲」という視点で論じ、年齢による 「役職定年制度」が役職定年者にとり「仕事に対する意欲」を失わせる起点となっていることを本論文で解き明かしている。また、まとめでは「仕事に対する意欲」を無くさない対策としての「役職定年制度」を提案する。
中高年社員の活用に向けた雇用施策の事例報告と考察
中央大学大学院戦略経営研究科 特任教授 中島 豊日本企業で働く社員には定年というライフイベントがある。本稿では、Marsden の雇用システムの分析モデルを用いて、 中高年層の活躍推進には企業と社員の双方が職務内容や賃金(人件費)の水準に対する相互の期待を調整することで、 定年後においても限られた人件費予算のなかで、企業は社員が満足できる人事運用を行うことができるという仮説を立てる。 その仮説にそって、金融機関A社における高齢社員の再雇用事例を検討し中年期以降の社員に対する人事政策について提言を行う。
従業員の組織の意思決定への参加がマネジメント人材の育成に与える影響
-稟議制度の機能についての一考察―
神戸大学大学院 浅井希和子
日本企業の意思決定は集団的であると言われ、主に欧米において研究されてきた「参加的意思決定」の成功例の一つであるとされてきたが、 日本の稟議制度に代表される参加的な意思決定方法は、欧米の参加的意思決定とは異なる原理、 メカニズムを持つものである。本稿では、稟議制度が日本のホワイトカラーの人材育成に与えた影響を、 日本企業の他の人事制度との関連性において考察し、現在の日本企業におけるその有効性について検討する。
寄附講座運営による人材開発
―総合物流企業S社の事例―
愛知学院大学経営学部 関 千里
本報告は、大学における寄附講座運営をつうじた人材開発の事例について考察するものである。 具体的には、総合物流企業において、寄附講座の運営がいかにして行われているか、各回の講義に係るテーマおよびメンバーの構成、 講義内における理解度の確認と引き継ぎの手法等について、キーパーソンの知見をもとに整理するとともに、 寄附講座の運営が企業内における人材開発と有機的に連動していることを示すものである。
ベイズ推論にもとづく人的資源量推定試論:タイ王国進出企業データを用いて
長崎大学経済学部 宇都宮 譲本研究は、人的資源量推定モデルを確立することを目的とする。対象は、タイ王国に 1967 年から 2012 年にかけて進出した製造業企業およびサービス業である。 推定モデルには、ロジスティック成長式を採用した。推定には、ベイズ統計による推定枠組を用いた。 結果、本研究は、産業および社会経済的ショックが推定モデルに重要であること、タイにおける人的資源量が単調増加したこと、および企業が内的自然成長率を調整して社会経済的ショックに対処したことを明らかにした。
中国経済転換期におけるハイテク国際企業の人的資源管理モデル及び運営方式に関する研究
中国西安工業大学・早稲田大学産業経営研究所 万涛中国経済転換期における対外投資及び海外進出のハイテク国際企業が大幅に増加している。 進出ハイテク企業の人的資源モデルは伝統の単一モデルを採用しないことが多く、民族中心と多中心主義の混合モデルを採用しているが、 混合程度が異なる 。人的資源管理運営方式は海外経営経験、親会社の制御、文化の風習、言語、法律環境と経済発展レベルなどの要因に基づいて統合して運用することになるが、社会資本と政治資本及び人間関係は運営方式に大きな影響を与える。
日中両国の職業能力育成の課題と特徴
-ポスト工業化社会への移行とグローバル市場のなかで-
常磐大学人間科学研究科 周楊
日中両国の企業は、知識・技術中心の高度な職業能力の育成管理という共通の課題に直面している。 日本企業は年功制から役割業績主義に変化しつつある現在でも、職場が仕事配分の自律性を保ち、職場主導型の職業能力の育成方式が維持されている。 一方、中国企業は労働者を内部か外部で調達するのかが違うものの、個人を中心に職業能力が育成される。本報告は両国の職業能力の育成現状を高度な職業能力の確保と関連して分析し、改革方向を探索していく。
同一労働同一賃金
―大学教員の場合―
城西大学 持丸邦子
大学における専任教員と、給与が極端に低いといわれる専業非常勤教員の職務を比較し、 「同一労働同一賃金」の考え方のもと、あるべき給与体系の試算を行う。 正規・非正規郎党者間の職務比較方法および大学教員の労働に関する先行研究を考察後、専業非常勤講師の実態を把握後、 労働組合によるヒアリング・統計調査および文部科学省の統計調査をもとに、非常勤講師の適正な賃金を試算する。
賃金はどのようにして決まり、どのような特徴があったのか
―構造方程式モデリングを用いた戦間期鐘紡会社の職員名簿分析-
山口大学経済学部准教授 川村一真
戦前と戦後のホワイトカラーの雇用管理にどのような連続性が見られるのか、この点について新たな知見を得るため、 学歴、学校歴の影響に注視しつつ、処遇の決定方法にどのような特徴があったのか、戦前鐘紡の職員名簿を題材に統計分析を行った。 その結果(ⅰ)戦前企業の特徴と言われる「学歴主義」「学校歴主義」は見られない、(ⅱ)「遅い選抜」とは対照的な競争構造、(ⅲ)職務も決定要因に含む基本給などが明らかになった。
日本型人事管理の変革とタレントマネジメント
環太平洋大学経営学部 柿沼英樹要旨:本研究では、わが国企業におけるタレントマネジメント論の理論的・実践的意義について、 日本型人事管理がたどってきた変革やその現状を踏まえて検討を行った。 その結果、タレントマネジメント論は、役割主義にもとづく人事管理や戦略的な人事管理の行為実践に対する有益な示唆を与えるが、 その一方で、タレント・非タレントの峻別に起因する弊害や、人事管理における長期的視点の軽視を課題とすることが明らかとなった。
自動車生産における「現場力」の構造
-先行研究は何を明らかにし、何を明らかにしていないか-
同志社大学大学院商学研究科 陳燕双
自動車企業の競争力の源泉とされる生産現場の「現場力」の解明には, ①「維持」と②「改善」の二つの活動,及び③行為主体(作業者,現場管理・監督,技術員)ごとの役割と相互連携・協働という, 三つの視点が不可欠である。このような「現場力」の構造を分析枠組とすることによって,初めて強い生産現場の全体を的確に把握できる。 本稿はその分析枠組を用い,日本における「現場力」研究の現状を確認する。
日本企業における柔軟性志向の HRM が組織の吸収能力に与える影響
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所/首都大学東京大学院社会科学研究科 藤澤理恵首都大学東京 西村孝史柔軟性志向の HRM(FHRM)とは、従業員のスキル・行動・HR 施策と事業とを適合させ続ける資源柔軟性と調整柔軟性の施策群である (Wright & Snell, 1998)。FHRM の組織の吸収能力への影響を Chang et al.(2013)のモデルを用いて日本企業 102 社において検証したところ、 先行研究と異なり、吸収能力への効果は資源柔軟性のみに見られ、調整柔軟性では見出されなかった。日本企業の文脈における HRM の柔軟性を検討するため FHRM を補完する HR 施策を探索しモデルへの追加を試みた。
モチベーション研究と公務員
―Public Service における合理性とはー
早稲田大学大学院政治学研究科 泉澤佐江子
Public Service Motivation(以下「PSM」)は公的組織の目的に反応する公務員に特有のモチベーションの傾向である。 本稿では、PSM を構成する「規範」「情緒」「合理性」のうち、合理性次元について整理する。合理性には私的効用の拡大という側面が含まれるが、 公共サービスに関わる公務員にとっての合理性が公益の実現という行政組織の目的に関連することを、既存のモチベーション研究及び公私組織比較から確認する。
バブル経済崩壊後の企業改革
―産業政策,組織再編,人事改革の視点から―
(公社)関西経済連合会・同志社大学大学院社会学研究科 中井正郎
バブル経済の崩壊以降、企業を再生させるためにどのような改革が行われたのかについて,産業政策,組織再編,人事改革という視点から明らかにする。 90 年代後半の「産活法」による個別企業の改革へシフトした産業政策,また企業組織の改革を促した商法改正を初めとする法整備,そして個別企業にお いては人事制度の業績主義への改革など,一連の改革を一つの文脈でとらえることが重要である。
東南アジアにおける日系中小企業の人的資源管理
-日本型 HRM と現地従業員離職率との関係-
新潟経営大学 塗茂克也
本稿は,近年大幅に増加している東南アジアへ進出した日系中小企業が成功するカギを人的資源管理(HRM)の視点から明らかにすることを目的としている。 量的調査の結果,組織コミットメントのうち愛着要素が離職率低下に有意な影響を与えることが確認できた。 先行要因としては,日本型 HRM の中でも「作業者とその上司の人間関係に日頃から気をつかう」という人間関係への配慮が愛着要素に有意な影響を与えている。
社会保険料の事業主負担の増加が労働者の賃金や企業の雇用政策に与える影響に関する分析
ニッセイ基礎研究所・金明中事業主が非正規雇用労働者を雇う最も大きな理由としては賃金や賃金以外の労務コストの削減が考えられる。 既存の社会保険料の帰着に関する内外の大部分の研究は社会保険料の賃金への帰着に集中しており、雇用量への帰着や雇用形態の切り替えを分析した研究はまれであった。 そこで、本稿では既存の先行研究を再考するとともにパネルデータ等を用いて社会保険料の事業主負担の増加が企業の雇用量や雇用形態に与える影響に関する分析を行った。
労使関係と賃金構造
―自治体データによる実証分析―
愛知工業大学 米岡秀眞
本稿の目的は,1975~2011 年度までの都道府県データにより,地方公務員の賃金構造を明らかにすることにある。 実証分析から,①地域の民間賃金と比較した議員の報酬規律が緩むと,一般職の賃金水準が高くなる,②組合が強いほど, 行政職における平均賃金を引き上げる一方で,その賃金カーブにまで影響を与える, ③行政職の賃金構造は,同一自治体内における異職種の賃金構造にまで影響を与える,以上 3 点が明らかとなった。