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2018年全国大会 7月1日 報告要約


韓国における外国人雇用の現状と課題―韓国の「雇用許可制」が日本に与えるインプリケーション―

ニッセイ基礎研究所 金明中

韓国では最近、少子高齢化による生産年齢人口の減少に対する対策の一つとして外国人労働者を受け入れようとする動きが広がっている。 韓国における優秀専門外国人労働者の誘致戦略としては、「電子ビザの発給」、「点数移民制の施行」、「留学生の誘致及び管理強化」、「投資移民の活性化」などが、 非専門外国人労働者の効率的活用と関連した代表的な政策としては、2004年8月に施行された雇用許可制が挙げられる。 韓国と同様に、急速な少子高齢化により将来労働力不足の問題を抱えている日本において、 韓国の雇用許可制は、単純技能労働者に対する受け入れ対策として参考になる良い事例であるだろう。 雇用許可制の成功と失敗の事例を分析し、日本に適切な単純技能労働者に対する受け入れ対策が導入されることを望むところである。


中国の企業における組合の役割と機能に関する研究
―労働者の労働条件に与える影響の視点から―

早稲田大学大学院経済学研究科 金鑫

本稿は、① OLS分析と二項プロビット分析を用いて、中国の企業組合に加入することにより、 労働者の各種労働条件に関する要素(賃金、五険一金制度への加入、労働契約の締結)へ有意に正な影響を及ぼしたこと、 ② Blinder-Oaxaca分析の下、賃金における組合員-非組合員の差異は、労働者の属性によるものが大きく、 五険一金制度への加入、労働契約の締結における組合員-非組合員の差異は、組合の影響が大きいことを明らかにした。


研究開発(R&D)職場における実務リーダーへの移行に関する研究
-聞き取り調査の結果を中心として-

専修大学大学院経営学研究科 博士後期課程 鈴木由秀

要約:新人のリーダーは、役割が大きく変化する中でどのような課題に直面し、これらの課題にどのように対処しているのだろうか。 本研究は、コスモポリタン志向が強いR&D部門を対象に、リーダー移行期の諸問題とその対処法に注目する。 聞き取り調査の結果、先行研究では指摘されたことのない新たな諸問題や対処法が発見された。 さらに、専門性が高い部門であるが故に、一般部門とは異なる特異な移行期の諸問題も発見された。


職場における「贈与」の効果
-フィールドデータによる分析-

大阪大学全学教育推進機構 柿澤 寿信

本稿では、ある国内企業において、労働の成果や生産性とは無関係に与えられた給付が、従業員の仕事満足度に与えた影響について分析する。 具体的には、ある企業において従業員の部・同好会活動に対する支援金支給が開始された事例に着目する。 分析の結果、当該制度の正の影響は導入初年度のみの短期的なものであったことが分かった。これは、実験的手法による複数の先行研究の結果と整合的である。


テクノロジーイノベーション企業におけるリーダーシップとチームイノベーションパフォーマンスの関係研究

中国西安工業大学 早稲田大学産業経営研究所 万涛

変革型、取引型と関係型リーダーシップはチームパフォーマンスにプラスの効果を持ち、チーム学習、チームイノベーション雰囲気、 チーム凝集力、従属感情の4つの仲介変数はリーダーシップとチームイノベーションパフォーマンスの間に仲介役割を果し、チームイノベーションパフォーマンスと高い相関を示している。 変革型リーダーシップは一般にチームイノベーションパフォーマンスに大きな影響を与えるが、取引型リーダーシップは更にチームメンバーの本質的な動機と熱意を刺激し、 関係型リーダーシップはよりカリスマ的である。


休・育休からの復職者の人事評価制度に関する2つの問題

甲南大学 奥野明子
関西学院大学 大内章子

筆者たちは、先行研究のサーベイから、産休・育休からの復職者の評価について鍵となる2つの問題を発見した。 本稿では、それらを「二重の削減問題」と「仕事の配分問題」と呼ぶ。 前者は、短時間勤務者について、勤務時間の削減に比例した基本給の減額に加え、短時間勤務者であるという評価者の認識から生じる低い人事評価結果によって基本給以外の賃金部分にも減額が生じることである。 後者は、復職者には質の低い仕事が配分される傾向にあるという問題である。 前者を防ぐために目標レベルの下方修正が行われることがある。 しかし、それは、高い目標達成度と低い組織貢献度というパラドックスを発生させる。 このパラドックスのため、復職者の人事評価制度の納得度は低いことが推測される。 本稿前半では、まず、この点を理論的に示す。 後半では復職者の人事評価への納得度と復職者に配分される仕事の特徴を明らかにするために筆者たちが行った調査を分析する。 復職前後の人事評価の結果や、それに対する納得度には一定の傾向があるとはいえないが、自身の人事評価結果に対する復職者の不満やあきらめの声を見過ごしてはならない。 2つのケースからは、休職前後で、トラブルや緊急事態への対応が減った一方で、代替要員がみつかる容易な業務が増加していた。 つまり、復職後には質の低い仕事が配分されていた。復職者の職務配分については、本人の希望に応じるだけではなく、中長期的な育成への考慮が必要である。


女性管理職のストレス因の探索 -日米の比較から-*

信州大学 岩田一哲
愛知大学 杉浦裕晃

本報告は、女性管理職比率の高いアメリカと同比率の低い日本で、女性管理職のストレス因を比較検討した。 役割葛藤は両国で共通のストレス因であったが、月平均残業時間は両国共に主要なストレス因ではなかった。 ただし、日本の残業時間の男女間格差は大きいが、アメリカでは男女間格差は見られない。 仕事負荷と役割曖昧性は、日本ではストレス反応に有意で大きな影響力があった一方で、アメリカでは有意な影響力は見られなかった。


キャンパス・セクシャルハラスメント事例にみる組織のガバナンス規程と運用・歴史的考察

北海商科大学 堤悦子

労働の現場におけるセクシャル・ハラスメントの認識の差は,何に起因するのだろうか。 日本は,敗戦後に他国の草案とはいえ,優れた人権尊重規程をおく憲法を有する。 問題は,女性の間では深刻に議論され頻発しているように思われるセクハラが,なかなか理解されず,公に議論されないことだ。 もっともアメリカでも#MeToo発言が始まったところだ。さらに大学は,脆弱な組織で,歴史的に偏向さえ護られてきた。 そこでハラスメントの具体例をとりあげることが重要であり,分析を試みた。


「家族賃金」観念の形成過程
-近江絹糸人権争議後の労使交渉を対象に-

法政大学キャリアデザイン学部 梅崎修
東海学園大学経営学部 南雲智映
東洋大学経済学部 島西智輝
伊丹市役所 下久保恵子

本稿では、1950年代の日本を代表する争議である近江絹糸人権争議直後の賃金体系をめぐる交渉を分析した。 その結果、労働組合は、近代的性別役割分業構造を前提として、ジェンダーバイアスのある「家族賃金」を要求していることが確認された。 この要求は、労働組合運動だけでなく、当時活発であったサークル文化運動の影響を受けていると考えられる。なお、この要求は、労働組合員の間でも対立的議論を生んでいた。


“失われた20年”における従業員の賃金および仕事についての認識と労働意欲の変遷

大阪大学経営企画オフィス 岡嶋裕子

1991年から20年以上にわたる日本経済低迷の状況下,労働力構成や価値観の変化など質・量の両面から労働市場が変遷した。 この20年間における,企業で働く従業員の仕事や報酬への意識の変遷について,当該期間における複数企業の賃金情報を含む従業員データにて考察した結果, バブル崩壊で賃金が落ち込み,徐々に回復基調のところを再びリーマンショックにより賃金水準が落ちたまま,現在まで推移しており, 従業員の賃金や仕事への認識が冷え込んでいることが個別企業データからも確認された。 また,従業員の給与水準の満足度には自分と同じ仕事をする人の市場価格よりも自身の年収が高い感じることの賃金満足度への正の効果が確認された。


効率賃金仮説に関する実証分析:
公務員の労働インセンティブと地域の労働生産性の変化に着目して

山口大学 米岡秀眞

本研究の目的は,効率賃金仮説を理論ベースとして,給与水準の官民格差が,公務員の労働インセンティブと地域の労働生産性に与える影響を同時に明らかにすることにある。 実証分析から,①官民格差が大きくなるほど,公務員による汚職が減少しており,労働インセンティブに着目した効率賃金仮説の理論モデルが, 公務員の行動原理を説明する上で一般的な説明力を持っている,②リーマンショック後,官民格差が大きいほど,地域の労働生産性が,より低下している, 以上の二点が,結論として導かれる。結論の含意として,経済不況期における官民格差の是正を行うことに特に留意すべきであること, 格差是正の際に,公務員の労働インセンティブにも配慮した給与改革の必要性が示唆される。


人的資源管理におけるメンタルヘルス対策に関する一考察

大阪成蹊大学 山崎 哲弘

本研究は、企業経営に多大な影響を与える従業員のメンタルヘルス問題について、人的資源管理における新たなメンタルヘルス対策のあり方について考察することである。 具体的にはメンタルヘルス対策を職場の活性化のための施策と位置づけ、展開することを試みているシステム会社A社へのインタビュー調査を通して、 ワーク・エンゲイジメントの視点におけるメンタルヘルス対策を考察した。


感情労働が心理に与える影響についての考察
―観光産業を例として―

摂南大学経済学部 野村佳子

対面あるいは電話を通じて,直接顧客にサービスを提供し,顧客の感情に変化を生じさせるために,労働者の感情管理について組織の介入がある職務を感情労働という。 感情労働は,労働者自身の感情管理を伴うため,心身に負担があるものとされ,これまでの研究では,メンタルヘルスの観点から,バーンアウトとの関係で論じられることが多かった。 しかし,感情労働者の中には,やりがいを持って,イキイキと働いている人たちも少なくない。 感情労働を心身への負担というネガティブな側面だけでなく,やりがいや喜びというポジティブな側面から考えてみることも有用なことであろう。


女性社員の昇進意欲向上を意図した研修の効果に関する研究

中央大学大学院戦略経営研究科ビジネス科学専攻 博士課程 笹尾佳子

女性活躍推進を重要な経営戦略と捉え推進し、女性活躍推進に関する研修を積極的に行なっているA社が、 管理職手前のリーダー層に対して実施した「女性社員向けキャリア形修」を取り上げて、女性社員の昇進意欲向上への研修効果を測定する。 効果測定の指標として、キャリア志向の変化、昇進意欲、行動変容等を研修前、研修実施後、さらに研修3か月後のそれぞれの変化とともに、 研修直後における直属の上司の関わり方が研修3か月後の昇進意欲にどのように影響しているかを合わせて調査した。


コンピテンシーは人材開発に活用できるか
~コンピテンシー評価と個人業績の関連性の分析~

中央大学大学院  中島 豊

高業績社員の行動特性から「コンピテンシー・モデル」を作成し、それに沿った行動を促して個々の社員の人材開発を試みることは企業で広く行われている。 しかし、高業績者の職務行動を一般的な社員が踏襲しても成果が担保されるということを実証した例はあまりない。 そこで本報告では、金融機関A社において3年間にわたって415人の管理職を対象にしたコンピテンシーの360度評価を行ったデータと業績評価結果の関係についてマルチレベル分析を行い、 両者に有意な関係があったことを実証した。


職場における能力開発についての管理職の評価・認識をめぐる分析

法政大学大学院社会学研究科 山口 塁
労働政策研究・研修機構 藤本 真

職場における能力開発が、それが実際に展開される職場の当事者によってどのように捉えられ、評価されているかを明らかにするために、本稿ではアンケート調査に基づく分析を行った。 職場を管理する管理職は、部下に対する能力開発支援活動を充実させるほどに能力開発に対する評価は高くなるが、活動や評価を左右する要因として、 関連主体との連携や人事部門からの支援の有無とともに、職場における円滑な能力開発を妨げる様々な課題の認識が明らかになった。 さらに管理職と、部下である従業員の、職場での能力開発活動に対する評価のずれに着目すると、管理職の自己評価の低さをもたらす多様な可能性が浮かび上がってきた。


時間外労働が従業員の満足度に与える影響

大阪大学国際公共政策研究科 博士前期課程卒業 西井 優
大阪大学 松繁 寿和(報告者)

本研究では、1企業の人事マイクロデータと従業員へのアンケート調査を合わせたパネルデータを用いて、製造工程部門と間接部門それぞれにおいて、 時間外労働時間が従業員の満足度に与える影響を分析する。実証分析の結果、間接部門の従業員においては、昇進等の影響をコントロールしても時間外労働時間は従業員の満足度に影響を与えており、 ある時間までは時間外労働時間が長くなると満足度は低くなるが、それ以上になると満足度は高くなるというU字型の関係が存在することが明らかになった。 しかし、製造工程部門については、時間外労働時間が満足度に影響しないこともわかった。


管理職のワーク・ライフ・バランス実現要因に関する研究

流通科学大学 岸野早希

本研究では企業におけるワーク・ライフ・バランス(以下、WLB)の実現に関する要因を明らかにするために「上司(管理職)」 に着目する。 これまでWLB研究において主な研究対象となっていたのは非管理職であり、彼(彼女)らのWLBの実現要因が主として明らかにされてきた。 しかし、非管理職のWLBの実現における上司の重要性が高まる中で、上司自身がWLBを実現する必要性が考えられる。 しかし、その必要性は指摘されてきているものの、管理職のWLBの実現要因に着目した研究はなされていない。 したがって、本研究では管理職のWLBの実現要因を探索的な検証を行う。

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