2019年全国大会 6月29日 報告要約
ベトナム人と日本人のフォロワーシップに関する国際比較
~メーカーA社のケース~
摂南大学経営学部 西之坊 穂本研究の目的は、ベトナム人のフォロワーシップの構成要素および日本人のフォロワーシップの構成要素を比較検討すること、 ならびにリーダーシップがフォロワーシップに及ぼす影響を明らかにすることである。 分析の結果、ベトナム人のフォロワーシップは4因子構造であり、日本とは異なっていた。 また、リーダーシップは、フォロワーシップの1つの構成要素に正の影響を与えていた。
チェコ進出多国籍企業におけるショップワーカーのトレーニング
-日独自動車関連企業の事例研究-
日本大学 西脇 暢子深刻な人材獲得難に直面するチェコ進出の日独自動車関連企業の現地生産拠点(A社、B社)で行われている、ショップワーカー(現場作業員)向けのトレーニングの事例研究を行う。 発表では、両社が独自に設計、実施しているトレーニングプログラムの内容、実施方法、成果、課題を比較し、それらから読み取れるトレーニングと組織マネジメントの相互関係性を明らかにする。
Exploring a Curvilinear Relationship between Hybridization Human Resource Management in Japanese Multinational Corporations and Subsidiary Performance in Vietnam
Graduate School of Business and Commerce Keio University Nana Weng国際人的資源は、グローバル市場における多国籍企業の競争力を高めるには不可欠な情報源だ。 高い財務実績(市場シェアの拡大など)および組織業績(従業員の職務満足度など)を達成するために、 先進国(例:日本)多国籍企業(Multinational Company)は発展途上国(例:ベトナム)に進出した後、 どのような国際人的資源管理(International Human Resource Management)活動(採用、トレーニング、 業績管理など)を運用すべきのか?本論文では、まずIHRMに関わる三つのアプローチに分けて考察を行った(移転型HRM、現地型HRM、支配型HRM)。 「移転型HRM」というのは原産国効果で成功した人事慣行を他の国に移転するHRM活動だ。 「現地型HRM」というのは現地文化的および制度的な文脈を考えているHRM活動だ。 「支配型HRM」というのは世界中で特に競争力があると考えられているため、ロールモデルとして存在しているHRM活動だ。 次に、「ハイブリダイゼーションHRM」という概念を説明する。 「ハイブリダイゼーションIHRM」というのは移転型、現地型、支配型のHRM活動をブレンドするIHRM活動だ。 その概念を取り入れて、移転型、現地型および支配型が占めている比率や割合によって、ハイブリダイゼーションの程度および形態が「高い、中間、低い」に決められる。 最後に、先進国多国籍企業が発展途上国に進出している場合で、ハイブリダイゼーションHRM活動と多国籍企業子会社の業績との間の関係を明らかにしながら、 HRM活動の採用、トレーニング、業績管理などの重要性を位置づける。 ベトナムにおける日系多国籍企業の事例から、調査とインタビューを通して分析する。
海外勤務、留学経験、英語の使用と高学歴雇用者の所得の関係
九州大学 武内 真美子本稿では、海外勤務と留学の経験および英語の使用が所得に与える影響を検証した。 高学歴者を対象とした分析の結果、男性の場合には海外勤務と所得に、女性の場合には留学と所得に正の相関が確認された。 また、自己申告による仕事上の英語コミュニケーション能力と英語水準は、強く所得に正の効果を持つことが確認された。
スキル・ミスマッチが賃金に与える影響
摂南大学経済学部 平尾 智隆本研究では,スキル・ミスマッチが賃金に与える影響を統計的に検証する。 具体的には,同じレベルのスキルを保有するにもかかわらず, より低い(高い)スキルが求められる仕事に就いたスキル過剰者(スキル過少者)とそのスキルに見合った仕事に就いたスキル適当者の賃金を比較する。 分析の結果,スキル過剰者はスキル適当者に比べて賃金が低く,スキル過少者はスキル適当者に比べて賃金が高いことが明らかになった。
どうすれば人は学ぶのか
-社会人の自己学習の実態,要因と効果の分析―
リクルートワークス研究所 萩原 牧子 孫 亜文 坂本 貴志 茂木 洋之本稿では,社会人の自己学習の実態を把握したうえで,どうすれば人は学ぶのか,また,学べば報われるのかについて, パネルデータを活用し,個人の異質性をコントロールしたうえで分析した。 結果,OJTやOff-JT,昇進・昇格,仕事のレベルアップ,評価・貢献・承認されることなどが,自己学習を促進させること, また,自己学習が年収やキャリアの見通しを高めること,女性非就業者の就業化の確率を上げることが明らかになった。
資格者団体における無報酬の役職者の組織行動
―行政書士会の事例から―
慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程修了 石原 静この報告は,行政書士という資格者で組織される団体で,組織や他の同業者のために,役職者として労働力を提供する, ボランティアを対象とした組織行動の検討である。自営業者である資格者が,機会費用を負担しながら役職を引き受ける, そのボランティア意識の確認,役職者と組織の関係,及び組織の帰属意識と職業満足に関する仮説を立て, 約450人の対象者に,悉皆調査に近い質問紙調査を行った。その結果の検証を試みる。
国家公務員の幹部候補人材の育成に関する研究
-いわゆる「霞が関のキャリア職員」の成長過程と育成上の問題-
内閣官房内閣人事局 今井 由紀子本論では、国家公務員の幹部候補人材の成長過程の実態と環境変化に伴って生じている育成上の問題を明らかにした。 調査は、幹部候補人材及び本省幹部職員になった者(計33人)を対象とするインタビューにより行った。 その結果、成長に当たって重要だった経験(仕事経験及び他者の観察経験)、それらの経験をもたらすメカニズム、経験から獲得した能力、能力獲得を促進するものの実態が明らかになった。
効率賃金仮説に関する実証分析
―わが国における地方公務員の汚職事件を題材に―
山口大学 米岡 秀眞本研究の目的は,わが国の地方公務員の汚職事件を題材に,効率賃金仮説の成否を明らかにすることにある。 実証分析から,以下の結論が導かれる。①公務員の給与水準が高くなるほど,汚職の発生件数はより少なくなる。 ②公務部門の人材の入替わりがあるほど,汚職はより少なくなる。 推計上,公務部門の人材の入れ替わりを考慮してもなお,公務員の給与水準の多寡が汚職の発生要因となることが明らかにされた。
障害者の職場定着を促す人事管理
―情報システム企業T社の事例研究―
一橋大学大学院経営管理研究科 丸山 峻本報告では、①人事施策の実行段階(設計と運用)、②人事部門とライン管理者の関係(権限・役割と連携・協働)の二点に注目して、 どのような人事管理が企業で働く障害者の定着を促すのかを障害者雇用の先進企業T社の事例研究を通じて検討した。 分析結果から、障害者の職場定着に有効な人事管理や人事部門とライン管理者の関係は、障害の職務遂行に与える影響の大きさによって異なることが示唆された。
企業で働いている精神障害者の心理的特徴に関する縦断的研究
-多母集団同時分析による信頼感とワーク・エンゲイジメントの関係の検討-
法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程 德丸 史郎企業で働いている精神障害者の心理的特徴を検討することを目的に、精神障害者と健常者の信頼感を2時点、 ワーク・エンゲイジメントを1時点で測定する質問紙調査を実施した。 両者における、信頼感とワーク・エンゲイジメントの関係、および信頼感の2時点目の各下位尺度間の関係について、 分析モデルを設定し多母集団同時分析を行った結果、両者において共通する関係と相違する関係があることが示された。
能動的キャリア形成意識と内部志向性に関する研究
中央大学大学院 高村 静能動的キャリア形成意識をもつ自律した個人の育成にあたり、業務遂行能力(人的資本)のみに投資を行うことには、 組織に対する個人の定着意識(内部指向性)や貢献意識を低下させる可能性が見られた。 企業・組織は、個人に自らのキャリアに向き合う機会を提供しつつ、個人の希望や関心を尊重し、 それを支援する自己啓発支援施策やワーク・ライフ・バランス実現支援施策を合せ実施することが必要であろう。
IT技術者の職業観タイプと職場適応感との関連
関西外国語大学 古田 克利本研究では、IT技術者の職業観(経済的職業観、個人的職業観、社会的職業観)のタイプを分類し、職場適応感との関連を検討した。 分析の結果、「経済的職業観のみ高く保有するIT技術者」「経済的職業観のみ低いIT技術者」「すべての職業観を平均的に保有するIT技術者」「すべての職業観を高く保有するIT技術者」の 4タイプが抽出された。また、すべての職業観を高く保有するIT技術者と職場適応感との間に正の関連が見られた。
中途採用者の職場継続意思に影響を与える要因
学習院大学大学院 小宮山 敏恵一橋大学大学院 中津 陽介
新規採用者を組織の一員として定着させ、戦力化させるまでに提供されるプロセスや継続的プログラムはOnboarding施策と呼ばれる。 本研究では中途採用者を対象に、新規に作成した尺度を用いてOnboarding施策が従業員の定着性向に与える影響について調査・検証した。 結果、Onboarding施策は中途採用者の定着に直接的に正の影響を与えており、その関係の一部は従業員の適合(fit)認知と心理的安全を媒介することが明らかになった。
雇用によらない働き方におけるワーク・エンゲイジメントの規程要因
-会社員とフリーランスの比較分析-
法政大学 石山 恒貴本研究では、組織に専従せず専門知識を提供するというフリーランスの働き方の特徴を、雇用によらない働き方の定義とし、その仕事に関する動機づけの状況を解明した。 分析の結果、会社員と比較した場合、フリーランスのワーク・エンゲイジメントの得点は有意に高かった。 また両者とも、キャリア自律の心理的要因は、専門性コミットメントとジョブ・クラフティングに媒介されて、ワーク・エンゲイジメントに正の影響を与えた。
労働市場改革・多様な働き方に対応する制度構造改革
~3階建®人事制度
エリス・コンサルティング 立花 聡現下日本の「働き方改革」の本質とは何か?低成長時代における賃金原資の総量増は望めず、「分配の公正性」が中核課題になってきている。 とりわけ正規雇用労働者と非正規雇用労働者の所得待遇格差に対し、一元的基準に基づく衡平原則を用いて、 労働者の「雇用と任命の区分運用」モデルにより、正規と非正規の壁を段階的に取り払う一方、企業側の人件費と生産性の均衡化を実現する、そうした制度的構造改革案を考察する。
雇用区分間の賃金決定方法と賃金格差
立正大学 西岡 由美みずほ情報総研株式会社 小曽根 由実
本稿では雇用区分ごとの賃金決定方法と賃金水準との関係性について検討した。 具体的には、日本企業は正社員と非社員間で同じ基本給決定要素を重視する企業と異なる決定要素を重視する企業に大別され、 非正社員の基本給水準は同じ決定要素を重視する企業の方が高い傾向にある。その傾向は同じ非正社員でもフルタイム非正社員で顕著であるとともに、基本給決定要素の組合せが非正社員の離職率に影響を及ぼす可能性が確認された。
「女性の健康と女性活躍」
~ヘルスリテラシーと職場管理職に着目して~
パナソニック株式会社 橡尾 麻未みずほ情報総研株式会社 小曽根 由実
本論文では、女性特有の症状による労働損失について確認するとともに、その抑制要因について検討した。 その結果、①女性に関するヘルスリテラシーは女性特有の病気への予防行動を促し、仕事上のパフォーマンス低下を抑制する効果があること、 ②ワーク・ライフ・バランス管理職の存在は、女性特有の症状がある女性社員の労働損失の抑制と、女性社員の継続的な就業を支援する効果があることが示された。
従業員の向社会的・向自己的ワークモチベーション
自己決定理論の観点から
一橋大学大学院 博士後期課程 Shin Hayoung一橋大学 島貫 智行
本研究では自己決定理論の観点から向社会的ワークモチベーションの概念定義や測定尺度を再考し、個人の心理変数や職務行動への影響を検討する。 日本企業のフルタイム労働者を対象とした2時点の質問票調査データを用いて分析した結果、向社会的ワークモチベーションにおいて統制的および自律的動機づけの2因子構造が見出された。 また、自律的な向社会的ワークモチベーションが成員の役割過重に影響し、フィードバックによって調整されることが示された。
男性による育児休業取得の効果
中京大学経営学部 櫻井 雅充九州工業大学教養教育院 小江 茂徳
本報告は,男性の育児休業取得によってもたらされる効果について検討するものである。 取得者の職場における役割やアイデンティティを分析視点として,Z市役所における男性育児休業取得者5名に対するインタビュー調査を実施し, 育児休業取得の効果を分析した。分析の結果,それらの効果として「育児者としてのアイデンティティ形成」,「働き方の効率化」,「業務に対する視点の相対化」の3つのカテゴリーが見出された。
産休・育休からの復職者の人事評価に関する研究
~復職者の人事評価の法学的側面と経営学的側面~
甲南大学 奥野 明子関西学院大学 大内 章子
産休・育休を取得者し、復職して働き続ける人の人事評価は適正に行われているのだろうか。 復職者の人材活用の鍵となるこの問題は、人事管理研究の中ではほとんど行われていない。 本研究の目的は、休職・復職に伴う不利益を争った判例を整理し、復職者の人事評価をめぐる問題を、労働法と人事管理のそれぞれの視点から分析する。 論点は、1.一律の処遇、2.能力や成果の高い復職者の人事評価、3.同僚との関係である。
疾病等罹患者の再就職先での定着に寄与する要因
PwCコンサルティング合同会社 松原 光代本稿は、就労世代における治療と仕事の両立に係る検討が不可欠になり、かつ疾病等罹患者の2割がこれまでの就労先を離職し再就職している実態を踏まえ、 中小企業を中心に当該対象者の再就職状況を把握するとともに、これまでの先行研究で示されてきた同一組織内の就労継続と同様の要因が再就職先での定着に有効であることを検討するものである。