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2021年全国大会 7月17日 報告要約


M&A における人的資源管理研究のレビュー

一橋大学大学院 経営管理研究科・三浦 友里恵

本稿では、M&A の人的資源管理に関する経験的な研究知見を、人事施策の統合・変更、従業員の態度・行動、組織文化統合、知識移転といったアウトカムに注目した研究群、及び M&A 前後に区分されるプロセスに注目した研究群に大別して整理する。両研究群は買収側による人的資源管理を重視しており、今後の共通課題に、重要性が示唆される被買収側の関与を明らかにすることがある他、研究群別の課題も特定されている。

仕事配分と人事評価が産休・育休からの復職者の仕事意欲に与える影響

甲南大学 奥野明子
関西学院大学 大内章子
金沢学院大学 奥井めぐみ

産休・育休からの復職者のマネジメントは適切に行われているか。残業や出張、突発的業務への対応困難を理由に、質の低い仕事が配分されていないか。その事が復職者の人事評価の結果、継続意欲、昇進・昇格意欲に影響を与えていな いか。復職者 117 のデータ分析の結果、「計画の立てやすい仕事」の配分が、評価に対する納得度と昇進・昇格意欲に正の影響を与え、就業継続意欲には負の影響を与えていること等を明らかにした。

柔軟性志向の HRM がコロナ禍における組織のレジリエンスに与える影響

リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所/東京都立大学 藤澤理恵
リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所 藤村直子
東京都立大学 西村孝史

戦略的人的資源管理論において、柔軟性志向の HRM(Flexibility oriented HRM:FHRM)は、 経営環境や戦略が変化しても戦略と HRM の適合(垂直適合)および HR施策間の適合(水平適合)を実現し続ける組織能力として概念化される。 本研究では FHRM による垂直適合に着目し、FHRMがコロナ禍の環境変化に対応する柔軟な事業戦略の実行に及ぼす影響、 また、戦略的人的資本の視点から、その効果の組織レジリエンスによる媒介を検証した。

自律的にキャリア形成する人材の育成に資する企業の能力開発支援-自律自走型人材の育成・確保策の検討

PwC コンサルティング合同会社(学習院大学経済経営研究所) 松原光代

本稿では、不確実性の高い時代において、労働者のエンプロイヤビリティ、なかでも自らキャリアを構築し、 そのキャリアの実現に向けた能力を開発できる自律自走型人材の育成に寄与する支援策を検討した。 その結果、若年期の試行錯誤をするような職務経験が重要であること、さらには管理職の職場マネジメント力向上等の支援がカギとなることを明らかにし、 これらが同人材育成の基盤となりうることを指摘した。

タレントマネジメント哲学の知覚と従業員態度の関係性に関する試論

流通科学大学商学部 柿沼 英樹

4 つのタレントマネジメント哲学を類型化したうえで、それらの知覚と従業員の心理的態度との関係性を定量的に検討した。 その結果、欧米圏で中心的に論じられる選別的な 2タイプとして知覚すると、そうでない知覚を持つ場合に比べて、ストレスやキャリア焦燥感、 アイデンティティの葛藤が有意に高まることが分かった。 また、その一部が、自身が所属企業のタレントであるという認知を強めると低減できることが確認された。

登用比からみた女性活躍推進の進展に係る一考察~「女性の活躍推進企業データベース」を用いて~

関西学院大学大学院経営戦略研究科研究員 車田絵里子

本稿では,厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」を用い,女性活躍指標のパネルデータと各企業の一般事業主行動計画をマッチングさせ, 主に昇進施策効果の視点から,女性活躍推進の進展について考察した。 結果,経時的には一定の昇進施策効果を認めること,とりわけ係長から管理職への昇進効果を得ている企業の特徴として, 推進部門の設置や,女性の職域並びに職務経験機会の拡大を行っていることが確認された。

地方中小零細企業の人的資源管理における研究可能性~社会的な人的資源管理モデルの構築を目指して~

東北大学大学院経済学研究科 博士課程前期 髙橋冬馬

本稿では中小企業や小規模事業者を対象に、組織間の協働の在り方に注目することを通じて、HRM研究がもつ可能性について考察する。 調査事例から見出された特徴を通じて、企業間、労働者間の協働がどのように機能しているのかについて考える。 最後に、今後どのような研究を行なうべきかについての展望を述べつつ、地方中小零細企業には大企業中心のものとは異なった行動原理がある可能性を言及する。

新規学卒者の「とりあえず正社員志向」の多次元構造の検討

千葉経済大学 中嶌 剛

本研究は,「とりあえず」という曖昧な就業動機で正社員を目指す新規学卒者(N=500)の心理的背景要因を探るべく, 「とりあえず正社員態度尺度」を作成し, 探索的因子分析により「とりあえず正社員志向」を構成する多次元構造を分析した。 また,縦断的な追跡データを用いた確認的因子分析により,個人の心理的発達の変化という視点から,意思決定を容易にし,行動実践に向けて有効な方策になり得ることを実証した。

DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に関する新規尺度の検討-DX 推進度を高める「組織」「人材」要件-

慶應義塾大学大学院 佐藤優介
慶應義塾大学大学院 羽生琢哉

日本では DX(デジタルトランスフォーメーション)の動きが活発化している ものの、DX 推進に向けた組織づくりに関する研究は萌芽的である。 本研究では経団連「協創DX」指標に基づいて「組織」「人材」に関する新規尺度を検討した。 アンケート調査の結果、DX 推進度を高める要件として、経営層のコミットメントや従業員の目的理解に加え、今回検討した「協創DX(オリジナル項目)」も重要であることが示された。

個人追跡データによるワークイベントとライフイベントを考慮した労働意欲に関する分析

大阪大学 経営企画オフィス 岡嶋裕子

本研究は,ある企業で 10年を超える期間に収集された全従業員の個人パネルデータを用いて,昇進などの仕事の質の次元が変わるような, キャリアステージが変わる仕事のイベントと,結婚や出産などの私生活のイベントの双方を同時に捉え,個人効果を踏まえた上で, 職務満足やwell-being についての長期的な変化を実証的に分析し,考察を試みる 。

就労困難性を持つ人材のインクルージョンマネージャー・従業員への聴き取りによる質的分析

横浜国立大学大学院 国際社会科学府 博士課程後期 山本 華

本研究の目的は,就労困難性を持つ人材を含む多様な従業員が働く組織において,どのようなマネジメントがインクルージョンを促進するのかを明らかにすることである。 質的分析の結果(1)サポートを受けている認識が自信や自尊心を高め,業務への積極性が増すこと (2)周囲の行うサポートと本人が知覚するサポートには差があること (3)就労困難性が高い人材は,差異化欲求が低い傾向にあることが示唆された。

マレーシアにおける日系企業の人材マネジメント―日系製造業 3 社の事例を中心に―

公立鳥取環境大学 兪 成華

本報告では、マレーシア労働市場における関連法令、労働組合や労使関係等既存研究を検討し、現地インタビューと工場見学等調査を踏まえ、 在マレーシア日系企業が安定的な利益確保を目指して経営の国際化を図りながら、マレーシアの経営環境に適した人事労務管理・人材開発について、 「採用」「賃金と人事考課」「教育訓練」「労使関係」に着目し、その現状、問題点及び今後の課題を考察する。

勤続に伴う労働時間の個人内変化:KHPS を用いた人的資本モデルとエージェンシーモデルの検証

慶應義塾大学大学院 田上皓大

本研究では、労働時間に注目して、そのキャリア・ライフコースにおいて男性労働者がどのような働き方を経験しているかを KHPS を用いて検討した。 成長曲線モデルと固定効果モデルによる分析を行った結果、勤続年数が増えると労働時間が増加するが、 2000年代後半の労働時間の減少トレンドの影響もあり、実際のキャリアにおいては男性労働者は労働時間の減少を経験していたことがわかった。

障害者マネジメント研究の知見の整理と展望

一橋大学大学院 丸山 峻

障害者マネジメントが障害者の態度・行動や企業の障害者雇用率等に与える効果を検討した既存研究の知見を、 障害者雇用方針・人事施策、管理者や同僚の行動、合理的配慮、の 3つに大別して整理する。 そのうえで今後の展望として、職場における障害者マネジメントを包括的にとらえた研究、人事施策の実行に関する研究、 障害者マネジメントの有効性についての境界条件、集中配置と分散配置の職場の比較検討の 4 つを提示する。

新型コロナウイルスが企業の⼈事・労務管理に与えた影響とテレワーク実施の決定要因に対する分析

ニッセイ基礎研究所 金 明中

2019 年 4月から「働き方改革関連法」が順次施行されている中で、最近、新型コロナウイルスに対する対策として、 在宅勤務を含むテレワーク等、多様な働き方に関する関心が高まっている。 実証分析の結果、テレワークの実施率は地域、業種、従業員規模、利益等の影響を受けるという結果が出た。 今後、新型コロナウイルスの影響によりテレワークが普及すると、本社の地方移転等が増加し、政府の地方創成政策とともに地域格差を縮小するのにプラスの影響を与えられると考えられる。

海外経営幹部研修の実践と評価“日本型”リーダーシップを学び,実践に繋げる研修の挑戦

公立大学法人 宮城大学 大嶋 淳俊

発展途上国の海外経営幹部を対象としたリーダーシップ研修が約 10 年間にわたって実施されている。 本研修の成果発現を探るため,今回はアジア 2カ国を選んでアンケート調査及び訪問調査を実施した。 その結果,“日本型”リーダーシップの理解が浸透し,周囲への波及効果も確認できた。 さらに,日本企業への理解と親近感の醸成に繋が り,日本とのビジネスの活発化にも貢献していることもわかった。

大学教員の内発的モチベーションを促進する要因 活動間の独立性に着目して

大正大学事業法人 株式会社ティー・マップ 杉田美調

本研究では,大学教員の内発的モチベーション を促進する要因について定量的に分析した。 その結果,大学教員としての四つの活動(教育・研究・社会サービス・学内行政)の内発的モチベーションに対しては, いずれも当該活動の「有能さ」が共通の規定要因かつ主要因であることが明らかになった。 また 研究活動時間割合への不満が,研究活動だけではなく教育活動の内発的モチベーションを低下させることも確認された。

職場公正性の価値評価- 生活満足度アプローチによる推計 -

大阪大学全学教育推進機構 柿澤 寿信

本研究では、生活満足度アプローチを応用して、仕事満足度に対する職場の公正性の効果を金銭価値として測定する。 ある企業の人事データと従業意識調査から成る 13 年分のパネルデータを使用する。 個人効果 による欠落変数バイアスの可能性に対処した推定を行った。 その結果、職場の公正性に関する従業員の認識が 1 尺度分変化すると、各項目について月例賃金の 18%程度に相当する効果をもたらすことが示された。

メンバー全員の能力を発揮させるための多様性&インクルーシブな組織マネジメント-ドイツ・スイスの多国籍企業聞取り調査からの示唆-

慶應義塾大学産業研究所 中川有紀子

多様性推進先進国であるドイツ、スイスの多国籍企業7社に対する聞取り調査から以下の3つの仮説を導出する。 ①タスク型多様性(リスキル含む)と深層的多様性が、重要な変数になっている。 ②インクルーシブな組織風土が、多様性推進の両輪として、組織メンバー全員の能力を最大限発揮させるための欠かせない概念である。 ③D&I両方が同時に備わる組織のほうが組織能力は上がる場合、その要因は現場管理職の個別のマネジメントにある。

緊急事態宣言下におけるテレワーク勤務を行う女性のワークライフバランス―オンラインインタビュー調査を通じて―

同志社大学 社会学研究科 博士後期課程 池田梨恵子

緊急事態宣言下における女性の働き方と生活の変化の実情を把握するため、1度目の緊急事態宣言中および直後にテレワークを行う女性10名にオンラインインタビューを実施した。 生活と労働の場が同一になることへの戸惑いや困難さが生じ、子育て期の女性は学校の休校により子どもの学習や生活監督役割も同時に担うこととなり負担が増していた。 一方でテレワーク経験は妊娠中の女性のキャリア観にポジティブな影響を与えていた。

企業による適切な労働基準の自主的な遵守に向けた、ステークホルダーとの協働アプローチの展開 ―ミャンマーにおける、労働安全衛生向上に向けた取り組みについてー

創価大学大学院博士課程 辻塚秀幸

適切な労働基準を企業に自主的に遵守させることを目的とした、ステークホルダーとの協働アプローチの事例として、ミャンマーの労働安全衛生に関する事例を取り上げる。 同国の労働安全衛生の法制とVision Zero Fund(FZF)によるプロジェクトについて、協働アプローチ及び自主対応型アプローチの観点から考察する。

リアリティ・ショックによる離職意思に対する生活満足の影響

兵庫県立大学客員研究員 中島智子

リアリティ・ショック(以下 RS)が離職意思に及ぼす影響について、生活満足による調整効果の観点から検討した。 企業の人事部が回答する企業データ97社、そこで勤務する964名の従業員データを用い、 (1)RS発生後に生活満足が離職意思を緩和すること、 (2)RS や生活満足の内容によって離職意思に与える影響が異なること、 (3)RS によるポジティブな離職の可能性が存在することを、定量的分析によって明らかにした。

仕事満足度決定要因に関する実証分析~女性の仕事満足度が男性よりも高い理由を探る~

金沢学院大学 奥井めぐみ

本研究では、労働者の仕事満足度の決定要因について独自データを利用し分析を行う。 先行研究では女性の仕事満足度は男性よりも高いという結果が一貫して得られているが、今回、主な変数と女性ダミー変数との交差項を加えると、 女性ダミー変数は有意でなくなり、時給や上司のタイプ、8歳以下の子どもの存在が仕事満足度に与える影響は男女で異なることが示された。 また女性では、職場の女性管理職比率が仕事満足度に影響する。
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